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日本人にわかるキリスト教を求めて

26May2012+011_convert_20120623181132_20120623222548.jpg井上洋治神父は、遠藤周作氏と共に、日本人の感性で正直に受けとめられるキリスト教を一生をかけて模索し、1986年「風の家」をはじめました。このサイトでは、「風の家」運動を引き継ぐ平田栄一が「求道俳句」ほか、日本人キリスト者の道を模索する試みを紹介していきます。お問い合わせ 略歴 著書

(24)『私の中のキリスト』における<「ファリサイ派の人と徴税人」のたとえ>-6.<たとえ>の立ち位置  

 ここまで――この本の第一部すなわち序章と第一章を、今取り組んでいる当該<たとえ>を念頭に置いて、整理してみると次のようなことがわかります。

 まず、ユダヤ教からキリスト教(厳密には、ここまではイエスの教え)の変化を、二項対比的に鮮明にし、読者にわかりやすく説明していく、という井上神父の筆の特徴がよくあらわれています。このことは、繰り返しになりますが、のちに「旧約思想の否定と超克」というはっきりしたテーゼをとっていきます。

ファリサイ派の律法主義、エッセネ派や洗礼者ヨハネの禁欲に対してイエスのゆるし、悲愛のまなざし(ヨハネによる福音書八章引用)が随所で対比されます。

 次に特徴的なのは、こうしたコントラストが自然・風土と密接に関連づけて語られているという点です。父性的な旧約思想やエッセネ派を育てた風土の象徴として、死海やユダの荒野の様子が語られ、一方、イエスのアガペー、ゆるしの思想を醸成した環境として、ガリラヤ湖周辺の柔らかさが対比的に述べられています。それはまた、飛鳥に象徴される日本の風土に通じることも示唆されます。

 そして、こうした宗教的あるいは風土・自然的対比のなかに、井上神父自身の体験が織り込まれていきます。それは、

①遠藤周作、矢代静一、阪田寛夫各氏らとともにした旅――「死海のほとり」の回想
②リヨンの修道院での回心体験
③ガリラヤ湖畔での幸福体験
④第二次世界大戦中の「青春の迷い道」
⑤ユダの荒野、ガリラヤ、飛鳥、また母との「夕焼け」体験所感(『心の琴線に触れるイエス』一〇三頁以下「夕焼け空の彼方のまなざし」参照)

という順に語られています。右①③⑤といった自然体験を通して、井上神父がイエスの福音の中心――共にいるイエス、イエスのまなざしを実感していく様子が伺えます。

ここでわたしは、ときに時間的にずっと遡る④や②の体験が、①③⑤といった自然体験の間に挟まれて語られているということに注目したいと思います。

それは、こうした一連の自然体験の中で、在りし日の人生論的あるいは宗教論的な、いわば〝傷〟が癒されていった――「私の生涯を通じて、私が気づかないどんなときでも、キリストは私と一緒に歩んでいてくれたのだ・・・・」(前述「ガリラヤ体験」)――ということを意味するのではないか、と推測するからです。

イエスの福音の中心的メッセージが、荒野からガリラヤ、父性から母性、裁きからゆるしへと転換しているという実感をもったとき、あの「青春の迷い道」でのわだかまりや、「押しよせてくる数々の疑問をかかえて」(『余白の旅』八九頁)精神的彷徨を重ねた苦労、そうしたことどもが氷解、否、実はイエス、アッバの御手にすっぽり包まれてのことであったのだ、という確信を得たのではないでしょうか。

そして、こうした自らの体験にもとづいて、他の求道者や日本人に対しても、「歪んだキリスト教のイメージを打ち破って・・・・真実のキリスト教の風景をえがきだそう」という、神父としての使命を全うしていくのです。

こうみてきますと、当該<「ファリサイ派の人と徴税人」のたとえ>は、井上神父の求道史において、律法主義・禁欲主義的キリスト教からアッバ神学的福音理解への転換点、メルクマールとなったのであり、いわば無意識の自力的求道から真の他力的求道へと移行する契機となったのではないかと思います。それはまた、感性的には神父を緊張からの解放し、真の安らぎ・和らぎへと導いたことでしょう。

category: 連載「井上神父の言葉に出会う」

thread: 聖書・キリスト教

janre: 学問・文化・芸術

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