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第2部(18)史実から真実へ3.もう一度十字架を・・・・(「風」第77号2007年冬掲載)  

先に見たように井上神父は、『ルカによる福音書』二四章の

「復活者顕現物語」において、よく問題にされる

――少なくとも、筆者の経験では、

キリスト教初心の方から必ず受ける質問のひとつ

――イエスの三次元的可視性(外的史実)をこえて、

弟子たちとの食事場面に注目し、

そこからイエスの「ゆるし」(内的真実)を重視する神学を展開していました。

この「ゆるし」によって、弟子たちに真の回心

――イエスに対する信仰=信頼が生まれた、とみています。

これと同じように、

『ヨハネによる福音書』の<イエスとトマス>のペリコーペにおいても、

右のような外的史実問題をこえて、井上神父独自の読み

――求道者としてのユニークな読み方

――行間読みがなされていると思うのです。

それはとくに、トマスとイエスの次のやりとりの解釈によくあらわれています。

<25・・・・トマスは言った。

「あの方の手に釘の跡を見、この指を釘跡に入れてみなければ、

また、この手をそのわき腹に入れてみなければ、わたしは決して信じない。」

・・・・27それから(イエスは)、トマスに言われた。

「あなたの指をここに当てて、わたしの手を見なさい。

また、あなたの手を伸ばし、わたしのわき腹に入れなさい。

信じない者ではなく、信じる者になりなさい。」>

井上神父はまず、二五節の言葉を口にしたときのトマスの心境を、

ていねいに推し量ります。

「一緒に行って先生と死のう」とまで言いながら、

結局裏切り見捨ててしまったことへの自己嫌悪と絶望感の深さ。

他の弟子は復活したイエスに出会い、

ゆるしを得て福音の喜びに有頂天になっているのに、

自分だけはのけ者にされているという孤独。

二五節には、

こうした「筆舌に尽くしがたい」「トマスの苦悩」が込められている、

と神父は「推測」します。

その上で二七節について、次のように述べています。

<これは非常に大変なことだと思います。

というのは、手をわき腹に入れるということは、

先生のあの十字架上での肉体的な苦しみを、

今一度先生の体に起こさせるということだからです。

おまえがそんなに信じないならば、わたしはもう一度、

十字架上のあの苦しみを受けてもいいよ、

だからおまえはわたしのこの傷の中にしっかり手を入れなさい、

と先生がトマスにおっしゃっているということなのです。

これはまったくすばらしい先生のお言葉であり、

本当に考えられないほどの深いイエスさまの悲愛のまなざしを

示しているといえましょう。」

(『福音書を読む旅』二七五頁)

この「手をわき腹に入れる」という行為を、

言語の表層的意味

―三次元的可視性―対象化―外的史実の文脈で捉えようとすれば、

このような解釈は出てこないでしょう。

もしそうした視点に立つなら、

その後トマスは自分の手(指)をイエスの脇腹に入れて、

どこまで復活体を確かめられたのだろうか、

などと際限のない史的推測が繰り返されることになるのではないでしょうか。

そこをそうせず、「おまえのためなら、もう一度あの十字架を、

あの苦しみを引き受けるよ」と、

トマスに対する「本当に考えられないほどの深いイエスさまの悲愛のまなざし」

――内的真実として受け取るということ。

それは、トマスとイエスのやりとりを、第三者、

傍観者としてわきから眺めるのではなく、

この二人の関係の中に実存的体験的に関わろうとする井上神父の

「求道者としての読み方」から出てくるのだと、わたしは思います。

と同時に、こうした解釈は、これまで見てきた井上神学の諸特徴

――共苦的性格、文学性、浪花節的特質等々といった

日本的感性に通じるものであり、

福音のなかに具体的に生きる日本人キリスト者として、アッバの前に立つ

――否むしろ、アッバに寄り添われている神父の姿を髣髴とさせるものなのです。
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